5人が本棚に入れています
本棚に追加
お姉さんの言うとおりに動くことは癪だが、恵が心配なことに変わりは無い。絹ごし豆腐に触れるようにそっと恵の頬に手を当てると、その温かさと柔らかさに自然と頬が緩む。その柔らかさを確かめるようにペシペシと叩くと、
「ん……」
艶っぽい声と共に眠り姫は覚醒した。
自身と、宮沢太一にとっての目覚めを告げるために。
「めぐっ――、た、竹之里、大丈夫?」
「ん……あれ? 宮沢、君?」
良かった、と太一から安堵のため息が漏れる。恵が無事なことが、混乱したままの太一には何よりも心強い。
しかし、彼女が次に発した言葉は太一を再び凍りつかせる。
「宮沢君、私“どうしてここにいる”の?」
トクン、と心臓が一際大きく鳴り響き、突然砂漠に放り出されたように噴出した汗がシャツをじっとりと湿らせる。一瞬にして干からびた喉は太一が何か問いかけることを拒絶する。ほんの数分前に頬を赤らめていた彼女はもう存在していない。太一の目の前にいるのは、事態を把握していない一人の女の子だった。
最初のコメントを投稿しよう!