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「私、なんでこんなところに……。やだ、もう下校時刻過ぎてるじゃない」
「ちょ、ちょっと! 待って竹之里。頼むから待って!」
慌てて立ち上がり、鞄を取りに教室に向かおうとする恵に目の前の現実を受け入れられない男が追いすがる。限りなく情けない言動だとは理解しつつも、先ほどの夢のような時間を無かったことにはしたくない。
けれど、聞かなくてはいけない。例え限りなく不幸な未来が待っているとしても。
きょとん、とする恵に、太一は祈るように問いかける。
「こ、告白の返事は……いいの?」
告白をしたのは恵からだということ、恵はここに愛の告白をするために自分を呼び出したのだということ、そしてまだ返事をしていないこと。
それら全ての情報を凝縮したこの質問は、一片でも覚えていれば恵の脳裏から記憶を引きずり出してくれるに違いない。
太一のありったけの願いを込めた問いかけに、額に手を当てながら「んーーーー」と悩むこと数十秒。
「ごめんね、何のことだか分からないよ。じゃあ、また明日ねっ」
悪魔すら魅了するような笑顔で、軽やかに太一の心臓を串刺しにして竹之里恵は去っていった。
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