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家の明りが灯っていた。
忠は、すぐには家の中に入れず、家の前で幸子に電話を掛けた。
幸子は、すぐに電話に出た。
「忠さん、大変よ。警察があなたを捜しているの?何かあったの?」
幸子の問いに、忠は答えようとはしなかった。
忠は、幸子に問いかけた。
「幸子、俺の事がどうしてそんなに憎い?」
その言葉に、やはり忠はすべて知ったのだと、幸子は改めて確信した。
「それは・・・電話じゃなくて、直接会って話がしたいわ。」
忠は、信じたくはなかった。
幸子が自分を憎んでいると云う事を。
だけど、幸子はその言葉に、否定する事はなかった。
「幸子・・・愛しているのに・・・君を失いたくなかったのに・・・」
忠は、言葉に詰まりながら、自分の思いを幸子に伝える。
「でも、あなたは私を裏切った。」
(裏切った・・・)
「浮気の事は、悪かったと思っているよ。」
「いいえ、浮気の事じゃない。」
「じゃ、前の妻に、男を嗾けて離婚した事?」
「いいえ。違うわ。」
「違うのか・・・それなら一体何だって言うんだ?
幸子、何が不満だって言うんだ。
俺は、子供達とも、最近は話すようにしていたし、男として、家の経済を支えてきたし、君を誰よりも愛してきた。」
「そう、愛してくれたわ。」
「わかっているなら、なぜ?」
「あなたは、男としては最高だったわ。
でも、父親失格よ。」
「父親・・・失格・・・」
まさか、そんな事が幸子の恨みを買っているとは思わなかった忠は、反す言葉がなかった。
「忠さん、あなたが子供達に与えてきたもの。
それは地獄よ。
あなたが、おいしいものを食べている時、女を抱いている時、思い通りに生きている時、
子供達は、犬用の食器にペットフードを入れて、ひたすらあなたと、佳代子さんからの愛を望んでいた。
それでも、あなたは彼らの気持ちをまったく理解しようとは、しなかった。」
「でも、それは直そうと努力していたじゃないか・・・」
忠は、なぜ一生懸命やっていた俺の事を理解してくれないのだと言わんばかりに、幸子に言った。
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