チロ

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私は今でもそうですが、猫が恐ろしくて恐ろしくてなりません。 従姉妹が「チロ」という、白い雄猫を可愛がっていたのですが、小さかった頃、私はこの猫にずいぶんといじめられたからです。 裸足で従姉妹の部屋を歩いたりすると、隙を見て、かかとに噛み付いてきたり、しゃっ!と鋭い爪でむこうずねをひと掻きしていくのです。 従姉妹の家に遊びに行くたびに、そんな目に遭いました。 今にして思えば、私のことを遊び相手……いい「おもちゃ」、からかい相手にしていたのかもしれませんね。 その従姉妹は5年前、急に肝臓ガンで亡くなりました。 もういけない、という電話があちこち駆け巡って、苦しむ従姉妹の周りに親戚皆が揃いました。 私も当然その中にいました。 従姉妹はもう、麻酔がなければ一刻もじっとしていられないほどの、ひどい苦しみ方でした。見ていて辛くてなりませんでした。 ところが、沢山の泣きはらした目が見守る中、もう意識が戻らないだろうと思われていた彼女が、まるで親戚一同が揃うのを待っていたかのように、ぽっかりと目を開けたのです。 そうして周りの皆にか細い声で 「今までありがとう」 そう別れを告げたあと、こう続けました。「窓のところにチロが来てるの。私が迷わないように迎えに来たのね……」 従姉妹はその数時間後、息を引き取りました。
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