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担当のお医者さんが伯母の方を見て、ゆっくり首を左右に振った、その瞬間です。
私のむこうずねに鋭い痛みが走りました。
思わず声をあげたくなるほどの強烈なものでした。
すすり泣きが始まった病室をそっと抜け出して、後ろ手にドアを閉め、外であわてて靴下を脱いでみました。
そこにははっきりと、猫の爪によるものとおぼしき、引っ掻き傷が出来ていました。
従姉妹の言ったことは本当だったんだ。
本当にチロは来ていたんだ。
そう直感しました。
「大丈夫。俺が一緒について行くから」
きっと彼は彼なりに、私にそう伝えたかったのかもしれません。
そう。昔、さんざんからかって遊んだ、泣き虫のむこうずねを、昔そうしたように、ちょいと引っ掻いて行くことによって……。
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