チロ

3/3
前へ
/337ページ
次へ
担当のお医者さんが伯母の方を見て、ゆっくり首を左右に振った、その瞬間です。 私のむこうずねに鋭い痛みが走りました。 思わず声をあげたくなるほどの強烈なものでした。 すすり泣きが始まった病室をそっと抜け出して、後ろ手にドアを閉め、外であわてて靴下を脱いでみました。 そこにははっきりと、猫の爪によるものとおぼしき、引っ掻き傷が出来ていました。 従姉妹の言ったことは本当だったんだ。 本当にチロは来ていたんだ。 そう直感しました。 「大丈夫。俺が一緒について行くから」 きっと彼は彼なりに、私にそう伝えたかったのかもしれません。 そう。昔、さんざんからかって遊んだ、泣き虫のむこうずねを、昔そうしたように、ちょいと引っ掻いて行くことによって……。
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

336人が本棚に入れています
本棚に追加