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相変わらず反応のない由利をつれ三人は学校の奥にある教会へ訪れた。
教会は今日もシンとしている。
「相変わらず静かだね。」
吏優はマリア像を見上げ不安げに呟いた。
「あぁ…」
暁は静かに聖杯に近づき、胸に十字を切った。
「アキ…何、するの?」
千里は由利の体を支えながら不安げに問いかけた。
暁は優しく笑い、言った。
「催眠術みたいなもんかな。大丈夫だ、危険なことはしないから。」
指先で、軽く聖杯をはじいた。
カチィン…と軽やかな音が教会を満たす。
中の聖水が、波紋で満たされていった。
「見たところ、篠崎の意識は俺たちの声が届かない奥深くにある。だから、ただ話しかけたんじゃ反応を示さない…。」
「…うん…」
ただ空を見つめる由利。
ぶつぶつと何かつぶやいているようだが、その言葉が何のなのか、聞き取ることができなかった。
「…そこで、だ。」
暁はキリストがたたずむ台の引き戸を開け、古びた水盆を取り出した。
「水鏡に隠れた何かを映し出してみようと思う。」
「…水鏡??」
「鏡はね、隠された真実を映し出してくれるものなの。」
困惑の表情を浮かべる千里に吏優が説明をしてやる。
「…鏡はどんなに隠そうとしても、取り繕っても、真実だけを映し出す。だからこういう“声を聞かない相手”にも有効なのさ。」
「…へぇ…でも、どうして水鏡なの??」
暁は静か由利の影が入る位置に水盆を置いていった。
「鏡はつながっているって話、聞いたことない?」
「…あぁ、ちょっと怖い話みたいなので…」
「…だからさ。」
「…え?」
「鏡はいたるところでつながっている…ただの鏡だったら、万が一何かが写りこんで真実が見えたとしても、別の場所に逃げられてしまう可能性があるの…。」
「…だから、聖母の加護を受けた、この聖杯の水を使った水盆を使うんだ。そうすれば、何者かが写っても閉じ込めるすべがある。」
不意に千里が、暁の服のすそを遠慮がちにつかんだ。
「…千里?」
「…由利、元通りになるよね?」
暁はふと笑みをこぼした。
「…大丈夫…何があっても必ず助ける。」
そういって千里の頭をなでた。
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