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そのことに気付かずに、十弥と一之瀬のつば競り合いは続くが、何の進展も見せずにいた。
たまりかねた一之瀬が左腕のキーに手をかける。
「こうなれば!」
一之瀬が半歩後ろに下がって左腕の装甲をスライドさせようとした瞬間だった…
一之瀬のマスクに、おびただしい量の鮮血がかかる。
「う…ウギャァァ!」
なんと、一之瀬の右腕の肘から下が、血しぶきを上げながら地面にボトリと落ちていたのだ。
「ディー・スラッシュ!」
十弥は力強く叫ぶ。
右腕を押さえながら転げ回る一之瀬。
その様子にたまりかねた四井は、十弥の前に歩み出た。
「一之瀬は、このままじゃ死ぬ。
お前も畜生でないのなら、一之瀬を病院に運ぶ時間をくれ。
短い時間だが、ともに過ごした同志だろう?」
四井の願いに十弥はしばしの間無言でいたが、ついに口を開き重い口調で言った。
「狙いは反れたが、俺は一之瀬を殺すつもりで刃を振るった。
今さら助けるつもりなどない。」
「十弥ぁっ!!」
十弥の心ない言葉に四井は怒りをあらわにする。
ただ、任務に忠実な戦闘マシンに変貌した十弥に向けて―
一之瀬は朦朧とする意識の中、痛みを堪えながら必死に立ち上がり四井に告げた。
「よ…四井さん、僕なら大丈夫です。
けど、このままじゃ足手まといになります。
先に、戻っていますから…」
必死に歩き始める一之瀬…
そんな彼の前に一台の黒い車が横滑りしながら急停車した。
「一之瀬、乗れ!」
スモークの入った窓を開け、一之瀬を呼ぶのは九条。
一之瀬はフラフラと後部座席に乗り込んだ。
そして、九条は十弥を鋭い目付きで睨みながら言った。
「十弥…
お前は優秀なメンバーだったが、何かとソリが合わないと思っていた。
その答えが、これって訳か。」
「九条。
ああ、俺もあんたが一番嫌いだった。
任務じゃなかったら、話もしたくないほどだったよ。」
十弥も本音で言い返した。
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