君のスイッチ

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 そう言って彼女は、見えないスイッチを宙で押すような仕草をする。人差し指でポチッと。僕はその奇天烈な彼女の言動と、奇妙な行動に安堵する。彼女の本質は変わっていない、世間に上手く順応しただけなのだ。  「判らないな」 と僕はコップを置いて彼女に訊ねた。「それは君の、所謂“ジャーナリズム”に関係しているのかな? そもそも、そのスイッチはいつから認識出来たんだ?」  「私に判らないんだから、アナタが判らなくて当然よ」 と彼女は皮肉を交えて言った。「まあ、でも、スイッチが見えだしたのは、ジャーナリストとして活動してからなのは間違いない。色々な人間と会って、話をして、文章を書いて、沢山の写真を撮っている内に、いつの間にか“そこ”に在ったの。手品みたいにポンっと現れた訳じゃない。水滴が石を穿つように、少しずつ現れたのよ、きっと」  
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