君のスイッチ

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 「それで結局のところ、君はスイッチの押す、押さないをもう決めてるのか?」 と僕は彼女に続けて問う。  マーヤは悩むようにうつむき、力なく首を横に振る。僕はそんな彼女の苦悩を理解しようとする、我が身に降りかかる苦悩を思い描く。だが、それはリアルではない。人間は他人の苦悩を完全に理解できないように出来ているのだ。絶対に。  「……アナタぐらいでしょうね、こんな話を聴いてくれるのは」 と彼女はポツリと呟いた。「正直、参ってるの。一人じゃ抱えきれない問題なのよ、少なくとも私にとっては」  判るよ、と僕は彼女の肩に手を置く。とても自然な動作で。そしてそれは、僕と彼女の付き合いの中で初めての肉体的接触だった。実に約五年間の付き合いで、僕は彼女に触れたことさえなかったのだ。その事実に自分で驚く。肩に手を置いた後に気付くなんて、と。  
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