君のスイッチ

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 ――僕等は居酒屋を後にした。一年間の隙間を埋めるのに、喧騒は必要無くなったのだ。彼女は僕を求め、僕は彼女を求めた。必要なのは認識、気付くこと。  二人に言葉は必要無く、視線と吐息で意志を交わす。僕には彼女の求めていることが判ったし、彼女もそうだと思う。事実、彼女は僕の求めているものを満たしてくれた。酒に酔った頭がぐわんと揺れる。夢と現の狭間で、僕は彼女を守ろうと誓う。  だが、苦悩は分かち合えない。人間はそのように出来ていないのだ。たとえ今の僕等だって分かち合えない。長年連れ添った夫婦だって、戦火を共にした戦友同士だって、共通の問題で苦悩する友人でさえ、分かち合えない。絶対に、だ。  大事なことは、認識。気付くこと。だが、僕には見えないのだ。彼女の“スイッチ”は。  
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