君のスイッチ

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 ――翌朝、ベッドの横に彼女の姿はなかった。夢、違う。微かに残る彼女の香りが、指に残る彼女の感触が、昨夜の出来事をリアルにさせた。一年前には絶対に使う事のなかった香水、清潔にされた柔らかい肌。  彼女の代わりに部屋に残されていたのは、一枚のメモだった。テーブルの上にポツンと置かれた一枚のメモ用紙は、見るだけで僕に孤独を与えた。書かれていた内容は実に彼女らしい。  『スイッチを押せました。ありがとう』  翌年、彼女が外国で亡くなったのを、僕はニュースで知ることになる。中東の内戦に巻き込まれ亡くなったジャーナリスト。アナウンサーが遺憾の念を込めて、それでいて淡々と原稿を読み上げていた。そのニュースが終わると、次にお笑い向けのバラエティー番組が始まったので、僕はテレビを消し、少しだけ泣いた。  
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