第一楽章

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辺りはしんと静まり返っていました。 澄んだ静寂が世界の隅々まで行き渡っていて、そこに音が生まれると、波紋が広がるかの様にしてその音もこの世界に響き渡りました。 この静寂に身を投じ、 瞳を閉じて、 耳を澄ませば、 心地よい潺湲の響を、 煕々とした風の便りを、 縹緲たる大気の鼓動を、 感じる事ができました。 ここは、静寂に支配された世界です。 その静寂の世界は、 月明かりに照らされて、 日中とは違った、 依稀な色彩を放っています。 新緑の鬱蒼とした草木は、陰がかって深緑に。 日の光りで艶やかだった細かな砂は暗闇がかったベージュに。 その様子は自然が何処か微睡んでいるみたいです。だから、これ程の静けさに世界は支配されるのかしら。 私の前に悠然と広がる湖。その湖はこう洋として幽隧とした、煌びやかな幻想世界。 私は今、その水辺に座って、 その水面をじっと眺め、 見詰めているのです。 水は硝子の様に透き通って、その水面は鏡の様に或が儘の世界を映しだします。そう、その水面は鏡です。 鏡は薄暗い夜空を映し出し、 夜空に浮かぶ瞬き煌めく星々を映し出し、 満ち欠けた月を的擽と映し出し、 その妖艶な月明かりも映し出していました。 そして、滾々とする波の揺らめきに、 空が揺らめき、 星が揺らめき、 月が揺らめき、 光りが波となるのです。その幻想世界に私は心奪われ、恍惚として浸っていました。 鏡は万物を映し出します。鏡は私を映していました。 そして、私の心の中をも映していました。 そうです、私の心は今、キラキラと輝いているのです。
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