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辺りはしんと静まり返っていました。
澄んだ静寂が世界の隅々まで行き渡っていて、そこに音が生まれると、波紋が広がるかの様にしてその音もこの世界に響き渡りました。
この静寂に身を投じ、
瞳を閉じて、
耳を澄ませば、
心地よい潺湲の響を、
煕々とした風の便りを、
縹緲たる大気の鼓動を、
感じる事ができました。
ここは、静寂に支配された世界です。
その静寂の世界は、
月明かりに照らされて、
日中とは違った、
依稀な色彩を放っています。
新緑の鬱蒼とした草木は、陰がかって深緑に。
日の光りで艶やかだった細かな砂は暗闇がかったベージュに。
その様子は自然が何処か微睡んでいるみたいです。だから、これ程の静けさに世界は支配されるのかしら。
私の前に悠然と広がる湖。その湖はこう洋として幽隧とした、煌びやかな幻想世界。
私は今、その水辺に座って、
その水面をじっと眺め、
見詰めているのです。
水は硝子の様に透き通って、その水面は鏡の様に或が儘の世界を映しだします。そう、その水面は鏡です。
鏡は薄暗い夜空を映し出し、
夜空に浮かぶ瞬き煌めく星々を映し出し、
満ち欠けた月を的擽と映し出し、
その妖艶な月明かりも映し出していました。
そして、滾々とする波の揺らめきに、
空が揺らめき、
星が揺らめき、
月が揺らめき、
光りが波となるのです。その幻想世界に私は心奪われ、恍惚として浸っていました。
鏡は万物を映し出します。鏡は私を映していました。
そして、私の心の中をも映していました。
そうです、私の心は今、キラキラと輝いているのです。
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