陽のあたる坂道

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気軽に挨拶を返して「えっ、誰に挨拶してんの?」なんて思われたらその時の僕は非常に恥ずかしい。 死にたくなる。 ここは無言で通すべきだ。 彼女が言った言葉の行き先を見届けてからアクションを起こすべきなのだ。 いや、待て。 よく考えれば道端の石ころ相手に挨拶する神崎の方が恥ずかしい、と言うか危ない人じゃないか? それに本当に僕相手に挨拶をしたのに僕が返事をしないのは相手に悪い印象を与えてしまうことだろう。 もしそれがクラスメイトに伝われば、「今朝あいつに挨拶したのに無視されたんだけど」「エーソレッテチョーカンジワルクナーイ」。 確実に僕の好感度は下がる。 あってないような好感度だというのに! いや、しかし僕宛でないのに返事をしたときのリスクも少なくは―― 「ねぇ、聞こえなかったかしら。 おはよう、そう貴方に挨拶をしたのだけど」 貴方、いま神崎は貴方と言ったか? ここには貴方と呼ばれるような人間は僕一人しかいないがいや待て、もしかしたら彼方と言ったのかも知れない。 地平線の彼方に向かっての挨拶だったのか、でも住宅地なんだから地平線は見えないんだけど。 山あるし。
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