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「都築だよ。都築伊月」
「そう、都築君ね。私は神崎優花」
「ああ、それは――」
知ってる、そう言おうとするが、果たしてそれでいいのか?
神崎の方は僕の名前を知らなかったわけだし、もしここで知ってるなんて答えるとそれはおかしいような、いやおかしくないのかも。
でももし不審に思われたら、というリスクをわざわざ犯す必要は無いわけだしここは知らないふりが無難ではなかろうか。
「初耳だ」
口に出たのはそんな言葉で、どうにも間違いを犯した感じがする。
「初耳?
クラスメイトの名前が初耳だなんて都築君はなかなか失礼なことを言うのね、行為後の和式便器に足突っ込めばいいのに」
失礼なのは何も僕だけでないと思うのだが、それは指摘するべきじゃない。
「あいつぅ、話してみたら文句ばっかりだったしぃ」「エーソレッテチョーカンジワルクナーイ」。
そんなシーンが教室で催されては困る。
その三日後には僕が屋上から飛ぶことになるからだ。
自慢じゃないが僕の心は麩菓子のように脆い。
自信がある。
「ごめんなさい。失礼でホントすみませんでした」
だからここは謝ろうじゃないか。
腰の低さが僕の売り。
「別に構わないけれど、それで、その怪我は何?」
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