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「筋肉が耐えられない」
とキイトは呟きながら少し考えるように地面へと目を伏せた。
よく考えればサミドがリミッター外しの1段階上の存在にたどり着けなかった理由が分かった。
自分の筋肉を自分で壊す。それも自分の意思で筋肉を酷使してだ。
できるのはおそらく気が狂った者か、勝利をそこまでして渇望する者。
そしてどちらでもなければ、おそらく天才ではできないだろう。
筋肉が壊れることを無意識のうちに知ってしまう天才にはそこまで辿り着くことができるとは考えられない。
つまり辿り着けるのは、筋肉が壊れると分からない者。
「神がもし居るならばよく考えたものだ。
魔法の才を種族として劣らせた代わりに、リミッター外しを行っても副作用の出ない体を与えた。
しかしリミッター外しを習得するのは、存在を知られてないがゆえ見つけることもそして習得することも難しい」
我はキイトの方を見ながら、我へと視線を移す彼に向けて笑みを浮かべる。
「そして天才ではおそらく、リミッター外しのもう1段階上には辿り着けない。だからこそ才を与えなかった。
才を自分で掴み取らなければそやつはただの魔法の才が劣る凡才、いや凡才未満」
「それって……」
ケイトはキイトの方へと視線を移動させている。
キイトはまさかと少し目を見開いた。
「でもそやつはすべて掴み取った。これは神の筋書き通りなのかもしれん。
リミッター外しという存在を知りそして習得した者が、リミッター外しの副作用がでない体を持ち、そして今さらなる高みに登ろうとしている」
我は1度そこで言葉を切り、再び口を開く。
「キイト、失礼な話だがそなたはおそらく生まれながらにして天才と呼ばれる部類の者ではないだろう。
しかし、そなたは今天才の上に立とうとしているのだ。
リミッター外しを生み出したものより、上の高みへと。だから胸を張れ!」
我の言葉にびっくりしたのか、キイトは慌てて縮こまっていた体を伸ばし胸を張る。
「今のそなたは他の者から見れば天才なのだ。
だから自信を持て、そしていつの世も天才を倒すのは努力をし続ける凡才と呼ばれし天才という事を忘れるな」
「は、はい!」
そんなキイトの力強い返事が我の耳に届いた。
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