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着替えてから。ユイはそう言った……つまりそれに対する答えはこれだ!
「いやぁ……折角久し振りの麻雀なんだし?着替えるのも面倒だし?このまま一緒に行けばいーんじゃねぇの?」
「な……ッ!?」
「帰ってから」と言うことは、今から一旦それぞれの家までバラバラになり、少なくとも何分かの時間を準備に使い。そしてそこに家までの往復時間がかかると言うこと。
さらりと自然体でその時間を稼ごうとしたユイの話術にはお見それしたが、今日の俺には通用しないのだ!
俺達が帰って着替えてる時間……その時間にその「見られたくないモノ」を片付けてしまおうなんて魂胆……見え見えだぜ!
「な?別に帰る必要、ないだろ?」
「うんそうだな、そうするか!」
「そうね、その方が楽よね。利に適ってるし」
「よーし、そうと決まったら早速ユイんち行こうか、お二人さん!」
言うなりそそくさと席を立ち、教室の扉に向かって歩き出す。
「ち、ちょっと待ってってば!あ、荷物……あ~もう待ってよぉ~!」
麻雀を提案するのに夢中だったユイは、忘れていた荷物を慌てて片付け始める。それを横目にして笑いながら、俺達は半ば早足で教室を出ていった。
廊下には、3人の歩くリズムと、扉を閉める音に続いて遅れて走ってくるリズムの足音が響いている。
「ち、ちょっと、待ってってば……わふぎゃっ!!」
相当慌てているのか、追ってくる道中でつまづいて転ぶユイ。こりゃ珍しい、この慌てっぷりは何年も見られないレアものだ。
靴を履き替え、学校を出る。春の昼下がりの畦道に吹く気持ちのいい風は、この楽しい時間が終わる事はないと告げるように優しく肌を撫でていった。
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