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「……それでさ、その時カンバンの上にスズメとニワトリが……」
相変わらず横でメガネが話し続ける。一体どこからこの元気は湧き出てくるのか不思議でしょうがない。
「……が吹っ飛んでいっちゃってさー!面白いのなんの……ってちゃんと聞いてるー?」
「聞いてる聞いてる。ヒヨコの頭がヅラみたいだったんだろ?」
「あー!もうー、また聞いてないね!?つまり……」
しまった。このパターンはまた初めから話し始めるぞ……はぁ。
俺達の住む弥香(ヤカ)島は、本土から離れた小さな島だ。ビルなんて建ってないし、車も少ない。本土にあるというコンビニもないし、娯楽施設すらない。
皆がそれぞれ農業なり漁業なりを営み、ほぼ自給自足で暮らしている。
問題なのは医者だ。診療所は一応あるにはあるのだが、週に2~3回、日替わりで本土から出張勤務している。その為、咄嗟の時は島民で何とかするしかない場合もある。
在駐する日の方が少ないので、薬をもらうなら今、と老人の訪問が多いようで、結構な激務らしい。
端から聞くと不便極まりないように聞こえるかもしれないが、子供の頃からずっとここて育っている俺達にとっては不便でもなんでもない。当たり前なのだ。
島の中心には大きな山もあるし、遊ぶには不自由しなかった。それに船に乗れば本島へも1時間程度でいける。CDだとかゲームだとか小洒落た物は、どうしても欲しくなれば買いに行ける。
結局、島だからといってもそれほど不便ではないのだ。
そんな大好きな島で、いつもと同じ道をいつもと同じ雰囲気で過ごす。いつまで続くのかねぇ……なんて事を考えながら歩き、気付くともう学校の門は目の前だった。
校庭では、朝一番から遊ぶ低学年の子供達の楽しそうな笑い声が響いていた。
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