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靴箱でスリッパに履き代え、教室に向かう。古い木造の校舎は、俺達の歩くリズムを律義に教えてくれている。階段を昇り、2階。この階段のすぐ目の前にあるのが、俺達中等部の教室だ。建て付けの悪くなった扉を力を入れて開ける。
ガッ、ガガガゴッ。
「おー、おはーん」
扉の開く音に続いて、教室の中から声が聞こえた。こいつも幼なじみの一人、緑山一弥(ミドリヤマカズヤ)。いつも陽気なヤツで、ユイと一緒になると元気は倍加する。いつもは遅刻ギリギリなんだが……今日は早いな。なんとなく気になる……聞いてみるか。
「うーす。今日はやけに早……」
「おっはよカズちん!ね、ね、昨日のアレ見た!?」
……いきなり作戦失敗か……まったく、来るまでもあんだけ喋ってたのに、ほんとよく喋るよなぁ……口がユイの本体なんじゃないか?とさえ思う。
「昨日のってとアレか!危機迫るよなぁあれは!」
「だよね、だよね!あたしなんて御飯食べるのも忘れて見てたよ!」
小さな島に住む俺達の楽しみといえば限られてくるもので、テレビかラジオ、それか雑誌くらいだ。
ユイはパソコンでインターネットもやってるみたいだけど、パソコンがある家ですら珍しいくらいだ。だからたいていの話題は、テレビで見た内容か近所の話になってくる。
でも昨日って、そんなに面白い番組やってたっけ……?お笑いならチェックするけど昨日は大して面白いのは……
「なぁ、さっきから二人で何喋ってるんだ?アレって何の事だよ?」
「えー、タクあれ見てないのぉ?」
「……うん、実は昨日は疲れて寝ちゃったんだよ。だから何やってたか知らなくてさ……」
我ながら上手い言い訳だ。咄嗟に出た言葉とは思えないな。将来は政治家かな。
「かーっ!おいおいタク、アレ見てないなんてお前よく生きてられるな!」
……ひどい言われようだ。政治家になる前に生きる努力をしなければ。そんなすごい番組だったなんて……
「で、なんて番組なんだ?」
「仕方ないなあ~、じゃあ特別に教えてあげようかなぁ?なんと!その番組の名前は……」
ごくり、と唾を飲む。たかだかテレビ一本の話で大袈裟だが、どうやら俺は「アレ」に政治家生命がかかっているのらしいのだから大事だ。
「その名前は…!」
『仰天動物危機一髪!レスキュー&面白ハプニング!』
……は?
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