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マンションの一室。
僅かに見えた室内は暗かった。
緑川は逸る胸を抑え震える手で鍵を差し込み右回りに動かした。
ガチャリ、と静かに響く音。
「た、ただいま…」
か細い声は室内に反響し、消えた。
嬉しいような悲しいような複雑な気持ちのまま、後ろ手にドアを閉める。
小さくため息をついて靴を脱ごうと屈んだ。
それと同時に再び背後のドアが開いた。
次いで聞こえる重低音。
「帰っていたか」
「っ!!?」
未だ聞き慣れない声に緑川は驚き振り向こうとしたがバランスを崩し転倒した。
前屈みになっていたせいもあり額を強く打つ。
鈍い音がした。
「……、何をしている」
「あ、あはは…」
もういっそ泣きたい。
緑川は額を押さえながらしっかりとした足取りで立ち上がった。
身体の向きを変え、一礼をする。
「お帰りなさいませ、デザーム様」
「畏まるな、何度言えば分かるんだ」
「…はい」
畏縮するよう下を向いてしまった緑川にデザームは肩をすくめ横を通り過ぎた。
緑川もそれに続き、居間へと歩く。
灯りが点いた室内は生活必需品以外何も見当たらない、殺風景な所だった。
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