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ナムドンセン -弟に捧げる三行詩-
1994年12月24日(曇)
午前8時
今日で7才の誕生日の弟の
朝食は トウモロコシ の 粒7つ。
栄養失調で カサカサの唇に
肥料不足で カサカサの粒が
ゆっくり 吸い込まれてく。
7粒目の宝石をまだ味わってる。
その隣で 丸ごと一本の黄色い
延べ棒を 頬張ってる私は
ただ悲しい目で弟を見守る。
去年の今頃、6粒の宝石が
転がってる弟のお皿の上に
半分に折った黄色い延べ棒を
そっと乗せたら 逆上した父が
弟の足首を掴み 逆さまにして
土の床に頭を打ちつけた。
あの日から私は父の監視のもと
弟とお皿をただ見守っている。
あの時 父はこう言ってた。
お前が誰よりも大切だ。
誰の子かもわからん弟なんか
どうなったって構わない。
午後1時
集落から きれいなお水が
消えて1ヶ月になる。
近隣の野蛮な国々から届いた
白いタンクの きれいな お水を
父と母が そぉっと飲んでる。
部屋の片隅では喉が渇いた弟が
そぉっと 一筋の涙を飲んでる。
午後8時
弟が生後初めて 靴を履いた。
私が5才の時に履いてた赤い靴。
色褪せて薄汚い桃色になってる。
弟の虚ろな目が久しぶりに笑う。
母が働く 薄暗い桃色の灯りの
お店に 全力で走ってく時も
私と遊ぶ 鮮かな草色の丘でも
いつだって 裸足だった弟が
初めて靴を履かせてもらった。
同時に弟の 歩く力は 尽きた。
午後9時
私たち家族は出掛けた。
父の決心と母の希望と私の疑問と
震える弟をリヤカーに乗せて。
午前0時
凍った川を渡り始めると
俄か雨で氷面が濡れ
一筋の ひびが入った。
父は真っ先に土瓶と土鍋と
弟を凍河に投げ捨てた。
駆け寄る母の足元が割れ落ち
リヤカーも沈みはじめた。
必死にもがく母と弟に目もくれず
父が一番遠くの私と アヘンだけを
高く貴く抱き上げて泳いだ。
妻と息子を 瞬時に失った父は
確かに にっと 微笑んでた。
楽園に辿り着いた私とアヘンは
見知らぬ女にその場で引き渡され
薄暗い桃色の灯りの店で眠った。
1995年6月23日(曇)
半年間 生きる為だけに
死ぬ思いだけをして
ついに裸足で逃げ出した私は
初夏の断崖に辿り着いた。
下はあの河が激しく流れる。
私はただ悲しい目で尖った
岩を見つめ覚悟を決める。
「ヌナア…」空から7粒の雫と
私を呼ぶ弟の声が舞い降りた。
もう躊躇うことは なかった。
私に宿ったこの
誰の子かもわからぬ生命に
弟の名をつけて
二人で生き抜く道を選んだ。
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