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唐突に悟る。
後ろに……なにか――いる。
誰もいない。誰もいないはずなのに背後の空間には確かな気配が存在して……いや滲みだしている。じくじくと腐った肉のような気配が背後からじくじく、じくじくと膿の様に滲み出している。
音もなければ、風もない。ただ後ろから湧きだす気配だけが辺りの空間を支配していく。
いる。いる。
いる。いる。いる。
駄目だ。見てはいけない。振り返ってはいけない。
念仏の様に繰り返し、沸き上がる得体の知れない寒気を抑え込む。
逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ、逃げな……!?
恐怖にすくんだ眞子の腕を不意になにかが掴んだ。
反射的に目を開けて、掴まれた自分の手をみる、そして眞子は次の瞬間見たことを後悔した。 それは……死人の手だった。腕を掴んでいるのは子供の手のように小さく湿ったゴムのような感触をした生白い死人の手だった。
それは背後からずるりと伸びている。眞子は掴んでいる腕にそって、ゆっくりと後ろを向く。見てはいけないと知りながら、意志に反して首が勝手に後ろを振り返る。
そして見てしまった。 すぐ後ろにある蓋の無いポリバケツを……
「ひっ」
あまりにおぞましい光景に眞子の喉が低い悲鳴を上げる。
ポリバケツの中には子供がいた。
子供達がいた。
狭いポリバケツの中にまだ幼い子供達がいた。 しかし彼等は醜く歪んでいた。
子供達は互いの体の圧力で侮辱的なまでに押し潰され、限界まで張り詰めたポリバケツの中で個々の肉体の境界を完全に失い、肉色の粘土のようになった状態で狭いバケツの中に圧し込められていたのだ。
どんよりと濁った瞳が眞子を見つめていた。いくつもの瞳が眞子を見ていた。
暴力的な力で漬物のように圧し込められた子供達は、眞子と目があったことを知るとさも楽しそうにケタケタと笑い出す。
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