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子供達の肌は肌色というよりも血の通わない肉色で、口元だけがまるで乱雑に口紅でも塗ったように紅く、それが彼等の異常さを際立たせている。そして彼等の口元には……ああ、なんてことだ。あれは髪の毛だ。彼等は人を喰っているのだ。白髪の混じった髪の毛は、ほん少し前に管理人室にいた人とよく似ている。
「あ、ああ」
後ずさろうとしたが腕を掴む異常な力には抗えなかった。万力のような力で掴まれ血の気を失った手から、あの日拾った鍵が落ちる。
鍵が落ちる。
その音に反応して子供の一人が笑いを止める。そして呟く。
―おかあさん―
その言葉に周りの子供達も笑いを止めて口々に喋り出す。
―おかあさんだ、おかあさんがかえってきた、おなかすいたよおかあさん、ゲゲッ、はやくたべたいよおかあさん、おなかすいたよたべたいよ、はやく、はやく、ゲゲッおかあさんたべたいよ、いいよね、かえってきた、いいでしょたべたい、ゲッ、たべさせてよ、おかあさんをたべたい、いいよね、いいでしょ、はやくはやく、おかあさんを、たべたい、はやく、たべたい、ゲゲッ、はやく、ゲゲッ、もういいよね、はやく、たべたい、たべたい、たべたい、はやく、たべたい、たべたい、たべたい、たべたい、たべたい、たべたいグゲゲゲッゲゲッゲゲゲゲゲゲゲゲッゲゲグゲゲゲゲゲゲゲゲゲッゲゲゲゲゲゲゲッゲゲゲゲッゲゲゲゲゲゲ
食い散らかしていた肉を吐き出し、一斉に【子供達】が嗤いだす。血に濡れた唇で嬉しそうに、楽しそうに、ケーキを前にした子供のように。
「あ、あ、ああああああああああッ」
眞子は気付いた、あの日拾った鍵は本当の意味で[鍵]だったのだ。決して拾ってはいけない類いの物だったのだ。捨てるべきだったのだ。
突然恐るべき力で腕を引かれ眞子の足が地を離れる、引かれた先にはおぞましいポリバケツがある。喉が引き吊り悲鳴すら、もう上げられない。
眞子はあんな物を拾ったことを後悔した。許して、とすら思った。
だが、すでに手遅れだった。全て手遅れだった。
そして、ゲゲッという笑い声を最後に、眞子の意識は闇に沈んだ。
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