レンズに映るもの

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 新築した一軒家は、正紀がセキュリティーに力を入れた家だ。  家を建てる前に、この付近で数年前に殺人事件があったという噂を聞き付けた正紀が、夜遅くまで帰れない自分に代わって、妻と老齢の父を安心させるために防犯面を万全にしておきたかった、というのが大きな理由だ。  玄関には契約した警備会社のマークがあり、鍵も特殊な作りになっていて、室内と屋外には監視カメラも設置されている。特に内外の監視カメラには力が入れてあり、動くものを自動で撮影する仕組みになっている。 「思ったより広いのね」 「二十年ローンだ。狭かったら困るだろ」  一生に一度の買い物だと奮発して購入した新居。そこを一通り見回った妻の感想は、そんな短いものだった。  これではせっかく防犯設備に力を入れたかいが無い、と内心で飽きれて冷蔵庫から缶ビールを取り出す。父の好きな銘柄で自分の趣味とは違うが、この際は気にしないでおこう。冷蔵庫の中はゴチャゴチャと食材が詰め込まれていたが、ビールだけは豊富に用意されていた。  比較的に下戸である父親にしては珍しいと思いながらも、アルコールの欲求には抗えず、我慢していた喉の渇きを潤すために、一気にあおる。  どうせ今日から数日はここに寝泊まりするのだ。少なくなれば買い足せばいいし、やがてくる新居での生活のためにも少しは息子と妻に慣れてもらわなければならない。  もう今日は運転しないのだからと、喉をひたすら動かし続ける。  ふと上げていた視界の端に何かが映る。わずかに上げていた映像(ビジョン)の下側に黒いナニカが横切る。 「んん?」  ビールを飲み干すのをやめて、視線を下げる。だが、それは見間違いだったのか、なにかが見えたはずの廊下にはフローリングの床があるだけだ。
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