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月曜の朝にゴミを出してから会社に出社するのが眞子(まこ)の日課だった。
その日も半透明のビニール袋を片手に眞子は2LDKのマンションを出る。パリッと決めたスーツ姿とゴミ袋の組合せはいささか奇妙だが、これは仕方が無い。
高層マンションの二十六階から見える空は曇天とまではいかないが、決して快晴と呼べるものでもなかった。
「ヤな天気だな」
眞子は一つ呟いてマンション備え付けのエレベーターに乗り込む。安全対策として、ゆっくり開閉するドアを見送って一階のボタンを押す。このエレベーターは完全にしまってからしか階数ボタンが利かないという特徴があった。
「もう早く閉まりなさいよ」
少しだけ苛立たしいと思いながら、エレベーターの壁面に背中を預ける。何度乗っても、高層階からたった数秒で地上に降り立つ高速エレベーターは内臓を持ち上げられる感覚がして好きになれない。
マンションのゴミ捨て場はマンションのすぐ脇にある。
眞子は一度バッグを担ぎ直し、ゴミを捨てようとしてそれに気付いた。
それは小さな黄色のバッグだった。眞子のような大人が持つモノではない。鮮やかというより、目にキツい原色の子供用の、小学校にも上がらない園児が持つような小さなバッグが、ゴミを入れる青いポリバケツの横にちょこんと落ちていたのだ。
「もう。今日は家庭ゴミの日なのに、これ不燃ゴミじゃない」
百世帯近い人間が生活するマンションともなれば当然マナーを守らない人間だっている。
家庭ゴミの日に不燃ゴミをだす人間もいれば、生ゴミや荒ゴミを指定曜日以外に大量に廃棄する人間だっている。とくに生ゴミはカラスや野良猫が散らかすので夏場はひどい臭いがして眞子はそれがイヤだった。
眞子は未来からやってくる幻臭に眉根を寄せながらも、とりあえずゴミ出してその場をあとにした。
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