青い蓋の内側に

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「どうやら幼稚園からの帰りに失踪したらしいんだよ。大雨の日でね、帰る途中の近くの川が氾濫してたから、川に落ちたんじゃないかって警察の話だけど。前にも何度かその付近で小学生や園児が行方不明になったからね。二、三年前から年に一、二回くらいかな。そういう行方不明事件は危難失踪、って言ってね通常より早く死亡手続きがされるんだよ」 「じゃあ、その中山さんはもういないんですね」 「そうだよ、どうしたの?中山さんになにか用があったの?」  ちょうどその時、机の上に置いてあった携帯電話が鳴り出す。軽薄な音を吐き出すそれは管理人のモノだったらしく、管理人は少しだけバツの悪そうな顔をした。 「いえ、用というほどの事は……分かりました不在なら結構です」  沸き上がった疑問を口にする事なく、眞子は足早に着信音から立ち去り、苦手な高速エレベーターへと乗り込んだ。 (おかしい)  眞子はエレベーターの中で黙考していた。  中山という女性が引っ越したのは一年前、当然彼女の一人娘が失踪したのはそれ以前になる。バッグを見つけたのが先日、あの黄色のバックはたぶん幼稚園のバッグなのだろう。 (やっぱりおかしい)  一年前に引っ越したなら、なぜあのバッグが今頃捨てられていたのか?  眞子の部屋がある26階にエレベーター数秒で停まり、チンという音を立てて開く。 (つじつまが合わない)  数日間、雨が降っていないはずなのになぜバックが濡れていたのか?うつむいたままポケットのキーケースを取り出しながら部屋の前まで歩いてくる。 (やはり変だ)  もしあれが幼稚園のバックなら、中山茜が失踪した時にはもっていたはずだ。  鍵を探り当てて眞子は顔を上げ……  それを見て凍りついた。  それはドアノブにかかっていた。
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