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それからしたたり落ちた雫がコンクリートの床を濡らしている。
ぽたり……ぽたり……ぽたり……ぽたり、ぽたり………ぽたり
消えたはずのあの黄色いバックが眞子の部屋の扉のドアノブかかっている。
扉の周辺の床は、したたり落ちた水滴でびちゃびちゃになっている。
全ての思考が凍結し、言葉が出なかった。
ありえない恐怖に唇が小刻みに震える。
ぽたり…ぽたり……ぽたり…
バッグからとめどなく滲み出た水滴は、水たまりとなり、眞子の足元まで広がってくる。まるで子供が手を延ばすようにゆっくりと……
あとずさる……水は近づいてくる。あとずさる……水は近づく。あとずさる……ビチャリ
ぎょっ、として音のした方に目を向ける。それはドアノブにかかっていたバックが床に落ちた音だった。
稚拙な文字でかかれた『なかやま』というも半開きになったチャックから、バックの中身がわずかに見える。そして……その中で誰かが笑った気がした。
いいしれぬ恐怖に背筋が凍った。
なにが起こっているのか理解出来ないが、とにかく一人でいたくない、だれか、だれか人の居る所へ行かなければ
沸き上がる恐怖に抗えずパニックを起こしかけて駆け出す。
エレベーターに乗り込み取り憑かれたように『閉』ボタンを乱打する。だが、
「早く!早く閉まってよ!」
「閉」のボタンを押し続ける内に、ようやく緩慢な動作でエレベーターの扉が閉まりはじめる。
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