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その事に少しの安堵を手に入れ、部屋の方向を見た眞子の目に異様な物が映る。
ドアノブにかけられた黄色いバッグ。その開いた隙間から……小さな生白い手が……
「―――ッ」
肌が総毛立った瞬間、ごうん、という鈍重な音を立ててエレベーターが動き出す。
だが、さっき見た異様な光景が頭にこびりついて離れない。エレベーターが一階に到着するまでの僅かな時間、眞子は明るい密室の中で静かに震えていた。
エレベーターはつつがなく眞子を一階まで運び停止する。ようやく管理人室の前まで辿り着くことができたことに深い安堵を覚えたが、管理人室を覗いても誰もいなかった。
「ど、どうしてよ」
恐怖に押し潰されそうになりながら深く煌々と明かりの燈る管理人室を覗きこむと、いつもは黒いビニールが張られたごみ箱が空になっている。
きっとゴミを捨てにいったのだろう。ゴミ捨て場は管理人室からならすぐだ。
…………
………
……
おかしい。いくらなんでも遅すぎる。
あれから五分以上経っているというのに、あの口の軽い管理人が帰ってくる気配は全くない。
いくらなんでも異常だ。
先程エレベーターが上に上がって行ったにもかかわらず、一向に降りてくる気配も無い。
いくらなんでも静か過ぎるのだ。
さすがに不審に思い、管理人室に足を踏み入れる。不用心な事に鍵はかかっていなかった。
初めて入る管理人室には、様々な生活用品と管理日誌などが雑多に置かれ、眞子にはどれが私物でどれが管理人のものなのか判断がつかない。
部屋の角には監視カメラとおぼしきモニターが設置され、モニターの上部には《エレベーター内》と書かれている。
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