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あたしは出ないで気付かなかったふりをしようかと、一瞬悩んで、やはり一瞬後には通話ボタンを押した。 「もしもし……どちら様でしょうか?」 相手が誰だか知っているけど、聞いてみる少しだけのあたしのスパイス。 『俺だ。ゆうひ、何してる?』 名前を言わない彼は、あたしの問いかけを無視して、自分勝手。 悠久の灯りで、“ゆうひ”と読むあたしの名前は、“久住悠灯”と言う。 久々に訪れた故郷を悠久に灯す。 でも、あたしの名前はあたしを照らしてはくれない。 もう一つの漢字変換で出てくる夕焼けのように、沈みゆくばかり。 その赤であり、橙色の灯りは闇への一瞬の間なのだから。
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