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春風に舞う桜の花びら
陽光に当てられて沸き上がる眠気
そんな季節の風物詩を感じる暇もなく、
足を右、左と振りながら歩く男がいた。
歳はいくつだろうか
ともかくスーツの着こなしと、そのしょぼくれた雰囲気をこれでもかと垂れ流す姿からは
間違いなく30年は生きていることを感じさせる、ある種の威厳が漂っていた。
しかしその威厳も、満員電車に体を押し込みビルの乱立する街の雑踏に紛れる頃には
只の中年サラリーマンという張り紙を背中に貼り付けられたような
疲れきった雰囲気に変わり果てていた。
そうして今日もまた彼はいつものようにオフィス街の片隅のくたびれたビルに
ため息一つを土産に足取り重く入っていっくのだった
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