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不意に声をかけられた彼は、上司の顔が明るいものでないことを確認すると
先月の営業ノルマ
取引先との接待の失敗
出張費を誤魔化したこと
それとも…
と考えられるだけの様々な要因を瞬時に記憶から解凍し
重い腰を上げながら、それはそれは申し訳ないというような表情を作り、上司の元へ駆け寄った。
「…なんでしょうか?」
勿体ぶった言い回しをしているが、どのような叱咤や怒声が待ち受けようと、
受け止める覚悟はしっかりと持っていた。
否
持っていると思っていた。
しかし、それは誤りであったと後に彼は理解する。
何故なら上司からの言葉は、怒声でもなく、叱咤でもなく、ましてや賞賛でさえなく
「田辺くん、悪いけど君、今日でクビや」
「・・・はい?」
ただ、彼に硬直を余儀なくする呪文
正に呪いの一言だったのだ。
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