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オフィス街から少し離れた公園で
彼は缶コーヒーを口に含みながら
通りをせわしなく動くスーツを着た人々と
足元を期待げにうろつく鳩を交互に眺め
終いに空を見上げた。
白い雲に全体を薄く覆われた空は
見る人によっては清々しく
見る人によってはどんよりとした印象を与えたことだろう。
無論彼は後者だった。
『クビ』
感覚が麻痺しているのだろうか、彼はその言葉を繰り返して口にしたが
何かしらの感情が浮かぶことはなかった。
あるいは、極度に熱いものに触れたときのように
もしくは、鋭い刃物で切りつけられたときのように
その瞬間は何も感じずに
徐々に痛みや熱さが襲ってくる
今はその意識と感覚の『狭間』なんだろうか。
とにかく今の彼にできることは
只目の前の空を眺め
時折思い出したように缶コーヒーをすすることくらいであった。
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