あるサラリーマンの話

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彼には妻がいた。 大学時代に友人からの紹介で知り合った女性 初めての女性だった。 卒業後数年付き合い結婚した。 彼は妻を愛したし、妻以外の女性が彼を愛することなど考えられなかったし だからこそなのか、彼自身、妻以外の女性に恋愛感情を感じることはなかった。 しかし妻にとってはそうではなかったらしい。 妻にとっての彼は『結婚』というステータスと避難所を提供する存在でしかなかった。 昨年、彼が出張から帰ると、そこに妻の姿はなかった。 預金の全額と共に。 若い男と共に消えたらしいと風の噂で知った。 彼に残されたのは無理をして買ったマイホームと車のローン 妻がご丁寧に達筆で記し、捺印していった離婚届 そして30代にしては少なすぎる給料と大量のサービス残業を与えてくれる職場だけだった。 そして彼は今日、また一つ失ったのだ。
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