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プルルルル…
唯一残された遺産
自宅に戻ると、くたびれた電話が無機質な呼び出し音を鳴らしていた。
彼はため息をついて子機を取り通話ボタンを押した。
「…はい」
『あ、田辺さん?新日ローンの松田です。
先月のお支払の方が振り込まれていないんですけど、どうなってますか?』
「あぁ、スイマセン、明日振り込みます。」
『明日明日って、いい加減にしてくださいよ。
こっちだって遊びでやってる訳じゃないんですよ?
毎月毎月電話するこっちの身にもなって』
…ブツッ
彼は無言で電話を切ると子機を放り投げると回線を引き抜いた。
「…はぁ」
一人で住むには広すぎる家に彼のため息が響いた。
彼はソファーに腰かけると両手で顔を覆った。
「こっちの身にもなってくれよ…」
彼の呟きに返答する人間は当然存在しなかった。
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