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そして少女は深呼吸をすると…突然小さな声で、言葉を紡ぎ始めた。
「我が言葉は神の言葉なり…心浮き立つ彼の少年の理性よ、目覚めよ」
それは、霊能者が霊力を操る為の言葉。
「はっ…」
少女の言葉が終わると、洋司はふと目が覚めたように自分の周囲を見回す。…事実、目が覚めたのだが。
「あれ…式、先輩?」
頭が正常に働くようになった洋司は、術をかけてくれた相手を確認する。
「はい、そうですよ~。だからさっさと窓を開けなさい、寒いから」
あ、すんません。と洋司は頭を下げつつ窓を開けに向かおうと立ち上がったが…、
「いおりちゃん、起きた?」
いおりが目覚めた事に気付いて、声をかける。
「ちょっとまえに、おきたよ。おはよう」
「おはよう!」
「おなかすいた~」
「よし、ご飯にしよう」
いつもと同じ朝のあいさつ。いつもと同じ朝の風景。
「…洋司君…」
庭の少女の事はすっかり忘れて、描き出された二人の世界。少女から出る怒りのオーラも、洋司といおりの平和な朝を壊すことは出来ない。洋司は食パンを焼いて、バターの塗り方をいおりに教えてやり、温かい飲み物を用意して…と、その時にいおりが気付いた。
「ようじ、あれだあれ?」
「あ!すんません!」
やっと自分がやるべきことを思い出した洋司は、慌てて窓を開けにいった。
「すんませんで済んだら警察は要らないわよ…」
少女…式は、怒りのオーラをこれでもかというほど発散していた。
が、部屋に入ってからも冷静なのは、先輩としての意地だろうか?
「いや、いおりちゃんの事となるとつい…すんません」
洋司も素直に謝る。
「くっ…羨ましくなんか…!」
外で待たされつつ新婚夫婦ばりのイチャイチャぶりを見せつけられたせいで式は頭に来ていたが…たった一言に全てを込めて、抑えた。
「ようじ、このひとだあれ?」
いおりは、式の様子など全く気にかけずに食パンを頬張る。
「ま、僕を霊能者に育ててくれた先輩でさ…」
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