プロローグ

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■■ 「はぁ……」  私はらしくもない溜息を一つ吐いた。  時は十月始め。夏はとっくに過ぎ去り、秋も半ば。  そろそろ冬の兆しが現れるかなぁ、なんて時期に出た溜息は、私の心の重さを表しているかのように白く空気を濁し、そして何も無かったかのように溶けて消えていった。 (私の憂鬱も、世界にとってはどうでもいいことか)  そんな愚痴ともとれる感慨に耽りながら、薄暗さの滲むオレンジ色に染められた廊下を歩く。  ……いや、とれる、なんて緩衝材は必要無いか。実際これは誰にもぶつけるつもりの無い、心の言葉で編まれた愚痴なんだから。  そんな自分に嫌気がさし、気分転換にと、窓越しに外を見る。  目に映るのは廊下とッじ色に染められた、校内の緑化を理由に植えられている桜の樹と、他校に比べれば広い校庭、少し前に改装された体育館の屋根の端のほうぐらいだ。  ……しかし、どこにも生徒の姿は無い。木々が風に吹かれて枝葉を踊らせてはいるが、それ以外に視界の中を動く存在は認められないのだ。  それも当然。  理由は二つほどあって、まず他に比べて遅い文化祭の、その準備期間に入ったから。  部活動も軒並み休止期間に入り、活動を行っていないため。  そしてもう一つ。時期が時期で、高校とはいえ下校の時間が早まり、そしてとっくにその時間を過ぎたのである。  そんな状況であれば、校内に残っている人間はほとんど居ない。いるのは幾人かの教師と警備員ぐらいだ。  ほぼ全ての生徒は、強制非強制関わらずに帰っていて、校内には誰一人として残っていない。  そう、私以外は。 (あーあ、ホンットに最悪)  何故、私だけが残っているか。  それを簡単に纏めてしまえば、無能担任・倉浦麗(くらうら うらら)の責任――そう言う他無い。  学園祭の準備期間と言うのは基本的に『それ以前に決められた催し物に必要な物品を準備・製作する』期間を表す言葉である。  実際出展許可を学校に提示する期限と言うのは、それ以前に設けられている。  だがそれを、私たちAクラスの担任様はすっかり忘れていた。  そしてそれを準備期間前日――つまり昨日の放課後、他クラスから『Aクラスって何もしねぇの?』なんて言葉で、私たちは初めて知ったのだ。
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