プロローグ

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 それからはもう、てんやわんやの大騒ぎ。  三年最後の文化祭を何もせずに過ごすとは何事かと、まずは学年主任に期限を今日まで引き延ばすように頼み込み、全員が集まれる期限当日の放課後に会議を開いて採決を――  と、そんな時。  またしても担任様はいらぬ才覚を発揮する。  こういう時こそリーダーシップを発揮し、皆の中心に立って物事を進めていく立場であるはずの彼女があろう事か―― 『ごめんねぇ。デートがあって、これ以上続けられると遅刻しちゃうのよ。女の遅刻には愛嬌があるっていうけれど、それは女の子の話なのよ。大人のオンナは遅刻せず、むしろきちんと男を待ってあげて、母性を見せ付けないといけないからね。あ、でも時には女の子であることも見せなきゃいけないわよ。そう言うギャップに男は弱いものだから。ま、そういう訳で、じゃあねぇー』  と、ご自慢のハニーボイスで要らぬ講釈をして、唖然とする私たちの前から、誰よりも早く去っていったのである。  そうなると、次なるリーダー候補が必要になる。それはつまり、担任の次にクラス内で権力を持ち、皆を纏める役目を与えられた人間。  それは当然クラス委員長であり、つまりはこの私、櫛木深南(くしき みな)である。  そのおかげで今日は、高校生活三年間の中で最も忙しい一日になった。確かに委員長と言う立場は、クラス単位では担任に次いで権力がある。  しかし同時に生徒であるわけで、他のクラスメイトと同等の立場である事も間違えようの無い事実だ。  とすれば当然論議を纏めるのは一苦労で、ただでさえ残り少ない時間を浪費したにもかかわらず何一つ決まらないという状況に陥り、最終手段として投票による採決が行われる事になったのが、下校時刻間際の事。  そして皆が帰る中、私は一人残って開票をし、学年主任に開票結果を提出して、やっと終わった帰れるー、なんて喜んでいたのがつい十分前。  ……だったのだが、それは脆くも崩れ去る。なんと私としたことが、疲れと安堵が重なっていたせいか、ケータイを教室に忘れてしまった事に気づいたのだ。
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