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『7月9日
村長の嫁の八千代さんに話を聞いた。
この村の低地にある池底には穴があり、その穴はなんと私のいた元の世界に戻ることのできる穴らしい。
明日調査し、可能ならその穴を通り元の世界に戻る。
余談だが、その穴には門番ならぬ穴番がいるらしい。
しかしその穴番は、私のようなよそ者には反応せず、ここの村人のみを襲い丸呑みにし、決して穴を通さないそうだ』
『7月10日
昨日予定していた通り池に向かう。
船の類は一切ないので反対側の壁へは泳ぐ。
水の透明度は良好、手製の水中レンズでも向こう10メートルは裕に見える。
しかしなにぶん薄暗いので少し潜ると途端に何も見えない。
深さも相当あるみたいだ。
もしかしたら重りも必要かもしれない。
穴番は本当にいた。
まるで巨大な鯉だ。
初めこそ私に反応したもののよそ者と理解したのか私が潜水を開始する頃合いにはもう浅瀬の海底で眠っているようだった。
今日のところは断念し、明日こそは元の世界に戻る。
少し疑問に思ったのだが、一度元の世界に戻ったらここに帰って来ることは可能なのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
明日に備えて早く寝る』
これで日記は終わっていた。
「……この後はどうなったんだ?
ちゃんとこの人は元の世界に戻れたのか?」
「わかりません。
しかし穴にキチンと入った事は確かです。その日にお別れ会もして、みんなで見送ったそうですから」
「喰われなかったのか?
その穴番に」
「はい。
鯉神様は旅人は食べませんから」
鯉神様……。
この村では穴番は神聖化されているようなので、それ以上下手なことを言うのを止めようと思った。
「今の状況の大体はわかった。
3年前にここへ誰かが着た後にそれより37年も前の奴が再びここへ来、そしてまたその40年後の俺がやって来た。
なるほど……。
普通の過去の世界とは違う訳だ」
元樹の中でやっと整理がついてきた。
今日は色々有り過ぎて脳が回っていなかったが、文書なら頭に入る。
ただ釈然としないだけだ。
ここは本当にそんな飛び抜けた世界なのか、村人総出のドッキリなのではないか、もしかするとクラスの奴も一枚噛んでるかもしれない。
そんなことしか考えられなかった。
「……わかった君を信じる」
元樹は嘘をついた。
全ての判断は明日する。
そう決心し、2人と別れ寝ることにした。
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