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急な傾斜を登りきり、村長の家の門に着いたところで千代は元樹のことを待っていた。
「すいません……。
一緒に来るよう言われていたのですが……ついカッとなってしまって、その……」
俯き加減に喋り、元樹と目は合わせなかった。
「……こっちこそごめん。
空気読めなくて……。
……さぁ、今日のご飯は何かなー楽しみだなー」
元樹はこのぎこちない状況を打破するためになるべく不自然に聞こえないように言った。
「……そうですね。
早く行きましょう。
味噌汁が冷めてしまいます」
2人は早足に家の中に入っていった。
元樹が朝飯を食べ終えしばらく動けないでいると、村長が話しかけた。
「今日はどのように過ごす予定ですか?
村を散策するなら誰か人をつけますし、また宴でも良い。
最後なのだからパァッとやりますか」
元樹は宴会を丁重に断る。
ただでさえ昨晩のドンチャン騒ぎの空気で飲まされたアルコールが体に少し残っていたからだ。
「いえいえ、今日は村の方をざっと見て回るつもりです、なので誰か案内や-」
元樹が言い終わる前に千代が手を挙げる。
それを見た村長はもとより穏健そうな顔に笑顔を付け足して言った。
「おぉ。
千代や行ってくれるのか。調度良い。
村の者を誰か呼ぶのも時間がかかるし、面倒だし、旅人さんの事を考えるとやはり見知った者が良いと思っていたのだ。
そういうことだ大侍。
今日は掃除、洗濯、皿洗い頼んだぞ。
私は今日昼からここで会合があるから手伝えんスマンのぅ」
大侍が渋い顔をする。
「兄さん、私はお皿を洗い終わってから行きます。
洗濯はもう済んでますし、掃除は……埃払いをして下さいな。
元樹さんお皿洗い終えるまでいいですか」
元樹は案内を頼む手前断れる立場ではなかったし、そもそも断る理由がないので素直に首を縦に振った。
「少し待っていて下さい」
千代は元樹にそう言い残して席を立った。
「良い女だろ」
千代の父が元樹に言う。
「家庭的な人ですね」
言葉を選んで無難なことしか言わない。
今日の元樹の目標だ。
「千代は母親似なんだ、大侍は私似だ。
どうだ似てるだろ」
傍にいた大侍も少し困った顔をしている。
どう見ても村長より大侍の方が大きい。
血筋的に見たらミュータントと言っても過言ではない。
「千代を頼む」
「ハァ」
無難に、無難に。
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