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元樹は言葉を濁したがそれを察知したのか千代はもう何も追及しなかった。
「ところで、この中に入りますか」
千代が指差す先は水路の出発点であり、水門のような場所だった。
入り口は崩落を防ぐためかレンガでしっかり補強しているため、何やら固い雰囲気を醸し出していた。
「うーん、そうだな、俺の先輩旅人が称したナイアガラの滝を拝んでみるか。
案内、よろしく頼む」
「では、こちらへ」
水門の入り口には数本の使用前松明がマッチ箱とともに配置されていた。
「時代的にマッチ箱はおかしいんじゃないか。
日本でマッチが初めて製造されたのは江戸時代後期だろ。
ここにあったら変だ」
元樹が首を傾げていると千代がマッチ棒を一本摺った。
小さな火が灯り、やがて松明に燃え移った。
「このマッチ棒とやらはあなたの前の旅人が、がくせいうんどう、で使おうと思ってたけど、濡らしてしまったからと、頂いたものです」
過激派だ。
元樹は思った。
「て、それ50年もののマッチ?
よく使えたな。
普通は使えなさそうなものだけど」
と言ってる傍ら、自分の携帯を思い出した。
もしかして電源がつくかもそんな淡い希望を胸に電源ボタンを長押ししてみる。
「反応なしか、ってあれ?」
携帯の裏側をよく見るといかにも大事そうな回路が剥き出しになっていた。
「落ちた時にぶつけたのかな?
ご愁傷様」
合掌。
「中は岩肌が粗いから気を付けて下さいね」
確かに地面はゴツゴツしている。
元樹はここへ来る前に望遠鏡を抱えて歩いたときのレベルの警戒心で千代の後に続いた。
何の会話もないまま歩いていると、元樹の前方を歩いていた、千代がピタリと立ち止まった。
「ここが……終点です」
「こりゃ、確かに登れる気がしねぇ。
なるほどナイアガラの滝はなかなか的を得た表現かもな。
こんなに激流なんて想定外だ」
元樹が見た上げた先には絶壁から水が蛇口を全開にしたように水が激しく流れ出す。
「あの、この滝を近くで見るなら気を付けて下さいね、水が飛び散ってよく滑りますから」
千代はそう言って明かりを持って元樹に近づいた。
「きゃっ!」
足元に石でもあったのか、バランスを崩し松明も宙に舞う。
「うおっと、注意した奴が普通転けるか」
元樹が間一髪でキャッチした。
「……ありがとうございます」
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