一方通行

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顔がほんの数10センチのところにあるのに気づき元樹はドギマギしたが、千代は少し悲しいような顔をした。 元樹にはそれが何を意味するかわからなかった。 「……私、助けられてばかりな気がします」 「エッ……そんなに助けた記憶は無いんだけど……。 いやむしろ改ざんしてでも思い出したいところだね」 元樹はそろそろ腕が限界に来たので千代を立たせた。 「…………昨日も手を取ってくれたじゃないですか」 千代は俯いたままかすれた声で言った。 「それが助けたのカウンと……回数になるんならいつでも助けるよ」 「ありがとうございます……」 千代はまた浮かない声で応える。 元樹が若干の疑問を覚え、ジッと下を見ている千代の赤い着物を眺めていると、パッと顔を上げた。 目が輝いている。 元樹はギクッとなった。 「あの、聞きたいことがたくさんあるんですけどいいですか?」 「あ、あぁ……。 答えるられるものなら何でも答えるよ」 「あ、ありがとうございます。 何から聞こうかなー悩むなー」 千代が首を傾げる。 そんな姿がまた癒やしになるなぁ、と元樹は心の中で微笑んだ。 「何でも来いよ」 「じゃあ、今の日本はどんなようですか?」 元樹は虚を突かれた。 どんな?そんな問いの答えを考えたことがなかった。 答え方すらわからない。 しかし何でも答えると言った手前、元樹は自分の薄っぺらい知識と少ない語彙で懸命に考えた。 「…………え、…………あーーうーー」 悲しくなってきた。 そんな元樹を見てか、千代がフォローを入れる。 「前に来た旅人が言ってたそうです。 今の日本は停滞期にある。 今すぐ変えなければならないと。 元樹さん。 あなたはそう思いますか?」 思うの前にやはり過激派と思った元樹には、まだ回答らしい回答は見つかってなかった。 「そうだね、今の日本はその停滞した空気を何とか壊そうと躍起になっている。 不景気はみんな嫌だからね」 苦しい。 実に苦しいし恥ずかしい。 こんなような話しは友達ともしたことがなかった。 それを昨日今日の仲の千代にするのはやはり苦しかった。 「停滞した空気を破壊する。 それはとても勇気がいるでしょうね。 とても……」 千代は何もない真っ暗な天井を見つめる。 元樹は千代が次、と言うまでその哀愁を帯びた姿をただただ見つめた。
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