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それから数問とりとめもないような問題が続き、そろそろ千代のネタがつきた頃。
「まだ何かあるのか?」
元樹が必死に疲労感を面に出さないように努力していると、予め決めておいたのか、急に真剣な顔になる。
元樹は身構える。
「……空って何ですか?」
本日2問目の難問。
何?元樹は対流圈や雲がどうのこうのと言っても無駄とわかっていたし、ましてや漠然に青いとか言ってもダメだと確信していた。
この目。
この顔つき。
期待は裏切れない。
そんな自分にプレッシャーをかける事ばかり考えてしまう。
じっくり時間をかけ、必死に言葉を選んだ元樹は暗闇の中に一本の松明だけが光を放っている、洞窟に静かに声を発した。
「……ちょっと、その松明こっちに貸して」
元樹は千代から松明を受け取った瞬間松明を水路に放り投げた。
アッと小さく千代が叫ぶ。
一瞬で暗闇が支配する。
瞼を閉じているのかわからない感覚になる。
「ゴメン、急に暗くして。大丈夫?」
はいと応える声だけが聞こえる。
「コレが南條元樹が思う空だよ」
「ただの真っ暗闇な水路ですけど」
「ウッ……手厳しいな。
本物が見せられないから仕方ないだろ」
すいませんと謝罪の声がどこからか聞こえる。
辺りにエコーするので正確な場所はわからない。
「目を閉じても、閉じなくてもどっちでも良い。
どうせ何も見えないからな」
千代は目を閉じた。
その方が元樹の言うことに集中できそうだったからだ。
「空ってのは単に俺達の上にあるものではない。
けれどつい、それを掴もうと手を伸ばしてしまう。
そんな衝動を掻き立てるいやらしい奴だよ。
でも人間は知ってる。
それが届かないってな。
例え飛行機…さっき説明したよなホラ、空を飛ぶ物体、で空を飛べたって、ロケットで宇宙に行けたって……、ロケットの説明は割愛する、月に降り立てても、空を掴むことはできない。
だから…人間は毎日空を愛おしく見上げるんだよ。
そして空に恋する。
今の君がそうだろ?
しかし見える物が全てじゃない。
そういう事だよ。
感じ、思い描くものなんだよ空っていうものは……。
自分を包み込む、ちょうど今みたいな感じに巨大な天上まで続く空間……。
それが空だ」
元樹は手探りで千代を探す。
すると手と手がぶつかった。
千代も同じく手を伸ばしていた。
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