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「粋な事言いますね」
ぶつかった手を握る。
「……良く言われるよ。
ところで、出口わかる?
真っ暗で何も見えないんだが……」
今更ながら水路に投げ捨てた松明が恋しくなる。
「何も見えませんよ……。
水路に足を入れて辿りますか?
いや、ちょっと待って下さい何か見えませんか」
元樹は首を回してその何かを見ようとした。
すぐにわかった。
天井付近で何か光っている。
「ホタルかコケかその類でしょうか?
とても……綺麗ですね」
千代は息をのんでこの光景を見つめる。
青色に幻想的に輝くそれは次第に数が増えていく。
最初は1つ2つだった光が今ではまるで小宇宙のように、何百何千と輝いていた。
「……おそらく」
「……それだけですか?
何かこの景色の感想はないのですか」
元樹は心ここにあらずと言った様子で返事だけをし、この天井のコスモに釘付けだった。
「まるで、本当に星空を見ているみたいだ」
そう小さく呟く。
「……星空ですか。
それはまだ聞いていませんでしたね。
どんなものか説明していただけませんか?」
千代は上を見続けながら言う。
いつの間にかこの暗かった洞窟も光のおかげで相手の顔もうっすらながら、読みとれるくらいの光量を得ていた。
「勘弁。
それは本物を見てくれ」
「本物ですか……多分見れないでしょうね生きている間は」
元樹はまたいけないことを言ってしまったかと思い千代を横目で盗み見るが、その顔は暗い事を言っているにも関わらず、スポーツ選手が激しい肉体労働を終えた後のような妙に清々しい横顔だった。
「俺がこの村を逃れたら、またここへ来て、今度は君も一緒にここを出て星を見に行こう。
まだ夏の大三角は見えるはずだ。
俺の友達も誘ってみんなでワイワイしようぜ」
千代は顔を依然、上方へ固定さし、顔も表情を変化させなかった。
「もう……いいんです。もう……」
元樹は無粋に「何が」と声を掛けるのを嫌い、少しの間言葉をまとめるために沈黙した。
洞窟の天井に光るホタルかその類の物を元樹も見続ける。
「携帯が生きてたらな……この景色も写真にして残していられるのになぁ」
「大切なモノは写真でも、頭でもなく、心に留めておくものですよ。元樹さん。
アッ……、こ、これは祖母の受け売りで……」
千代は元樹の方を向いて手を振って必死に照れ隠しをする。
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