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―何なのだろう、この胸騒ぎは
…
「お待ち下さい、姫様っ!!」
「危険です、お戻り下さいっ!!」
誰かが私を止める声がする。
しかし、そんなことにかまっていられない。
―早く、早くっ…!!
私は、裸足で戦場を駆け抜ける。
知らせを聞いて、頭が話を理解する前に体が動いていた。
舞い上がる砂塵に、鉄の匂い…
落ちている鉄の刃に着物や足が引っ掛かるが、痛みも何もない。
何も語らず、朽ちていくだけの骸がその暗い眼窩で見つめてくるが、それすらにも恐怖を覚えない。
― いや、そんなことを気にす
る暇すらなかっただけだ。
とにかく走らなければ ―
「兄様っ!!!」
大好きな兄の声が聞こえたと思ったら、開けた場所に飛び出た。
いつもの優しい声で叱ってくれる、そう思っていた。
「― あれぇ?女の子だぁ」
― ソレは、笑った
兄様の首を持って
「っ…ぁ…ぅ…ぃや…いやぁぁ
ぁぁぁあああっ!!!!!!!!」
頭が真っ白になった。
信じたくなくて、現実が認められなくて、その想いから視界が暗転する。
「…が憎い?憎いよねぇ、恨めしいよねぇ」
完全に意識が消える寸前に聞こえた言葉。
「いつでも殺しにおいでよ。待
ってるからさ」
ソレは楽しそうに笑う。クスクスと、幼子が無邪気に笑うように ―
― そして私は
名を捨てた
兄様の仇討ちのために
兄様を奪った奴を殺すために
【女】としての人生も捨て
私は刀を手に歩き出した ―
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