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淡々と言い放った政宗に成実は慌てて謝った。
しかし本人はフイッとそっぽを向き、完全に成実を無視している。
「無視するなよ政宗~」
「…今日ここに来たのは、団子食いじゃねぇだろうが」
えぐっと泣きついていた成実はきょとんとした表情になり、あぁと数十秒かかって己の用事を思い出した。
「アレの情報だよ」
「…」
微かに政宗が纏う雰囲気の変化に気付いたが、そのまま話を続ける。
「甲斐の国に現れたみたい。
まぁ遊び程度だったみたいで、そこまでの損害は無かったみたいだけどね」
「…どの方角に」
成実は一旦言葉を切り、おもむろに告げる。
「- ここ、奥州に」
瞬間政宗は立ち上がった。
そして足早に部屋を出る。
その後を慌てて小十郎は追った。
「政宗様っ」
「収集をかけろ。
密偵の奴らも飛ばせ」
「しかし、明確な情報とは言えませんっ」
小十郎の言葉にも耳を貸さず、スタスタと歩いていく。
もう一度呼び止めようとした時、部下の一人が政宗の前に膝を就いた。
「筆頭、面会希望者が此処に参っております」
「後にしろ。
今はそのような暇はない」
「それが…」
部下である男は言いにくそうに言葉を詰まらせる。
それを見た小十郎は先を促す。
「名は?」
「…は、甲斐の真田 幸村、と…」
「…真田、幸村っ…?」
名を聞き、小十郎は一瞬我が耳を疑った。
何の冗談かと思ったが政宗の空気が元に戻ったことに気付き、主君を見遣る。
すると政宗は自室へと方向を変えた。
「小十郎、先刻の命は無しだ。
客人の茶を煎れろ。
客間に通しておけ」
「は、了解しました」
政宗はそう告げると着替えのために戻り、それを了承した小十郎は内心政宗が客人と会うことを許可したことに安堵し、男に指示を出すとそれぞれが成すべきことをするべく別れた。
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