飛奏曲:潛蒼龍-ヒソメクソウテンノリュウ-

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ここ、日の本の国は緑溢れる深緑の国であった。 しかし世は戦乱、武士や大名等による領地の奪い合い・天下統一のための犠牲と度重なり、終わりが見えない戦は確実に日の本を蝕んでいた。 ― そんな戦況の中、強大な力を持つ妖が姿を現した。 その妖は人間の幼子に姿を化け、全国各地に現れては惨殺を繰り返していると言う。 どんな攻撃もどんな武器も幼子の前では無力であり、赤子同然であった。 その妖に乗じ、他の妖も姿を見せた。 妖など空想上の生物だと思っていた人々は、成す術も無くただ暗闇に怯えるしかなかった。 ― しかし、ただ黙って皆殺しにされる訳にはいかない ― そんな想いから領主たちは立ち上がった。 妖に通用する武器を作り、いがみ合っていた国々は停戦をして妖退治に乗り出した。 ― 大事なモノを 民たちの明日を 守るために × × × × × × 卯月 昼下がり 奥州にて 「― よし、こんなものだな」 午後の暖かな日差しの下、縁側にて愛刀の手入れを終えた青年は太陽にその刃を照らす。 曇り一つない刃は、持ち主の心を反映させるように光る。 「政宗様」 縁側を歩く足音が聞こえたと思うと、青年の背中にそう声が掛かった。 「んー? どうした、小十郎」 青年 ― 政宗は振り向かずにそう問いた。 【伊達 政宗】 ― 奥州を領地とする伊達家当主。 〈独眼竜〉の異名を持ち、愛刀〈備前国長船住景秀〉を手に戦う姿は、さながら猛る蒼龍のようだと人々の口の端にのぼる。 【片倉 小十郎景綱】 ― 〈独眼竜〉の懐刀にして奥州一の智将と言われ、常に政宗を支えている。 戦では政宗の〈右眼〉となり、共に戦う姿は白虎のようだと言われていた。 ― そんな政宗に、小十郎は現在の領土の様子と他国の動きを報告する。
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