-漆黒の翼-

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「お父様」   少女は、父の元へ駆け寄った。 誰もが羨む程美しい純白な翼に身を包まれ、引き込まれそうな程深い、紅色の瞳。 この世界の住人独特の、白銀の長髪は、腰まで伸びていた。   「おお、コーディリアか」   父と呼ばれた男は、微笑むと娘の頭をワシワシと撫でる。 隣には妃が腰掛けている。 この男は、この世界を統べる王と、呼ばれた。   「お部屋に戻って、本でも読んでなさい」   まだ幼い娘に王はそう言うと、娘の背中を軽く押して、部屋に戻るように促した。 王と妃が座る玉座の両脇に控えていた召使は、コーディリアの小さな手を握ると、お嬢様、と微笑んで見せた。     部屋に戻るなり、コーディリアはベッドに倒れ込む。 ふかふかの毛布に顔を埋めると、深く溜め息をついた。   「はあ……」   コーディリアは、不満を抱いていた。 窓の外を見ると小鳥が自由に飛び回っているというのに、私はまるで籠に捕らわれた鳥なのではないか、と。   一人での外出は無論許されず、外出したいとなれば必ず誰かが側に付き添っている。   王位継承者、という事で、酷く大切に扱われていた。 それは少女にとって、非常に心苦しかった。   「……そうだ」   少女は、閃いた。 部屋にいる間は、誰も見ていない。出ようと思えば、窓から抜け出せるのだ。 部屋のドアの向こうには召使が、いつでも動けるように待機しているが、部屋の中には、何もない時は召使の身分では入る事は許されなかった。     少女は、脱走しようと試みる。 時間までに帰ればバレないと思ったのだ。   少女はゆっくりと窓を開ける。   「よいしょっと」   身軽な動きで窓から飛び降りると、辺りを見渡した。 誰かに見つからないか、とひやひやしたが、どうやら誰もいないようだ。   少女は、自分の部屋が一階である事に感謝し、城の脱走に成功したのだった。          
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