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電話が鳴る。
俺はディスプレイを確認することもせず、通話ボタンを押した。
わざわざ視認しなくとも、このメロディが流れるのはあいつからの電話がかかったときだけだ。
「どうした?」
『…………』
そっけなく言った俺に対し、相手は無言のまま喋ろうとしない。
少々苛立ちを覚える。
「用がないなら切るぞ」
もちろん、本気で切るつもりなんてさらさら無いけど、相手には効き目があったらしい。
僅かな動揺が、電話回線越しにでも伝わってくる。
『……迷った。迎え来て』
ぼそりと呟いた言葉に、俺は嘆息。これで今月、何度目だろう。
「お前さぁ……、方向オンチのくせに、何でいつも一人で出かけようとすんだよ」
毎回探しに行く俺の身にもなってみろ。
言外に含んだ嫌味に、こいつは気付いただろうか。
『……今日は、平気な気がした。とにかく早く来てよ』
しれっと言った態度から察するに、気付いていないらしい。
いや、気付いていてあえて無視しているのだろう。
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