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「……甘いな」
「え!?」
僕は思わず、ばっと振り返ってしまった。
彼は、甘い物が苦手だ。
だからわざわざ食べやすいように、ビターチョコレートで作ったのに。
もしかして……間違えた!?
「ああ、いや、チョコは苦いよ?」
慌てる僕に気付いたのか、彼は安心させるように微笑んで、また1つ、チョコを摘んだ。
確かめるようにゆっくりとかみ砕いて、もう一度口を開く。
「でも、甘い」
そうして、いたずらっ子みたいににやりと笑った。
彼は僕の前では、いろんな笑い方をすると思う。
他の人たちに向ける作り笑いとは違った、自然な笑顔。
それはきっと、僕だけのもので……。
また頬の温度が上がりそうで、僕は彼から顔を背けた。
「圭って……ばかだよね」
苦し紛れの照れ隠し。
だけど彼は、僕より一枚も二枚も上手で。
「うん、知ってる」
気にする風でもなく頷いて、またひとつ、にっこりと笑った。
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