一章・そして彼女はグレた

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 男は振り返り、湖を背にして歩き出す。 目立たない様で、どこか気品を感じるマントをはためかせ、男は馬を繋いできた桟橋へと歩いた。  男は繋いでいたロープを外し、馬の顔を優しくなでた。 「ラルブウェイン、待たせたな」  ぶるる、と顔を震わせたラルブウェインに男は跨る。  さわやかな風を浴び、もう一度湖へと振り返って、ラルブウェインは蹄の音を奏でながら走り出した。  男がランディール男爵の屋敷に到達した頃には、既に太陽は真上に到達していた。 「ふぅ、少し遅かったか」  ラルブウェインを馬小屋へ連れて行き、そのまま男は屋敷内へと歩を進めた。 「おかえりなさいませ! 早く服をお着替えになってください! 子爵様がご到着なされます!」  屋敷に入るなりルエットが駆け寄ってくる。  男、改めグラハム・フォン・ランディール男爵は羽織っていたマントをルエットへ渡し、急ぎ足で自室へと向かった。  約束の時間は正午、つまりもう既に過ぎているも同然なのである。  男爵は自室、入って左側のクローゼットを開けた。  中にはびっしりと接待用の豪贅な服が詰まっている。  男爵はその中の一つをハンガーの部分を持ち、取り出した。  その服の色を見て男爵は顔をしかめた。  きらびやかに装飾された緑の服である。  昔から男爵は貴族の服装がどうしても気に入らなかった。  なぜ股間にポケットがついていなければいけないのか、なぜこんなにも細部に装飾がなされているのか、もっと安く作れはしないのか、等不満は数え切れないほど持っているのだ。  しかし、一応は貴族、体面上外行きの服などで子爵の前に出ようものならランディール家は終わったも同然だろう。
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