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男は振り返り、湖を背にして歩き出す。
目立たない様で、どこか気品を感じるマントをはためかせ、男は馬を繋いできた桟橋へと歩いた。
男は繋いでいたロープを外し、馬の顔を優しくなでた。
「ラルブウェイン、待たせたな」
ぶるる、と顔を震わせたラルブウェインに男は跨る。
さわやかな風を浴び、もう一度湖へと振り返って、ラルブウェインは蹄の音を奏でながら走り出した。
男がランディール男爵の屋敷に到達した頃には、既に太陽は真上に到達していた。
「ふぅ、少し遅かったか」
ラルブウェインを馬小屋へ連れて行き、そのまま男は屋敷内へと歩を進めた。
「おかえりなさいませ! 早く服をお着替えになってください! 子爵様がご到着なされます!」
屋敷に入るなりルエットが駆け寄ってくる。
男、改めグラハム・フォン・ランディール男爵は羽織っていたマントをルエットへ渡し、急ぎ足で自室へと向かった。
約束の時間は正午、つまりもう既に過ぎているも同然なのである。
男爵は自室、入って左側のクローゼットを開けた。
中にはびっしりと接待用の豪贅な服が詰まっている。
男爵はその中の一つをハンガーの部分を持ち、取り出した。
その服の色を見て男爵は顔をしかめた。
きらびやかに装飾された緑の服である。
昔から男爵は貴族の服装がどうしても気に入らなかった。
なぜ股間にポケットがついていなければいけないのか、なぜこんなにも細部に装飾がなされているのか、もっと安く作れはしないのか、等不満は数え切れないほど持っているのだ。
しかし、一応は貴族、体面上外行きの服などで子爵の前に出ようものならランディール家は終わったも同然だろう。
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