一章・そして彼女はグレた

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「ふむ、してグラハムよ。シュターク公爵の娘とはどうなのだ?」  グラハムには許嫁が一人いる。フンベルト・フォン・シュターク公爵が四女、キュラリス・フォン・シュタークである。  確かに容貌は美しい彼女であるが、何せ性格が極めて貴族のそれなのである。  貴族を好まないグラハムは、彼女からたびたび結婚の話が挙がっても、なかなかそれを受けようとはしなかった。 「あいにく、進展はございませぬ。正直言うと、苦手なのです……」 「なるほど、あの家の者ならばいたしかたあるまい。しかし、こうやって断り続けられるのも今の内ではないか?」 「気ままに暮らしていますよ。今のところは。ところで、ご令嬢は?」 「フランディルケか。湖の景色が甚く気に入ったようで外で景色を見ておるよ。どれ、連れ戻してこよう」  グラハムはホールの扉を開けようとするベルツを呼び止めた。 「ベルツ殿、私が参ります。此処でお待ちになってください」  齢55にもなるベルツの体は、長年戦場で痛めつけてきたせいであちこちにがたが来ていた。 今や杖をつかなくては歩けないほどに、歴戦の将校は疲弊していたのだ。 「おお、すまぬな」  ベルツは目を細め、外へと向かうグラハムの背中を見守った。
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